目次
就労継続支援A型/B型
・就労移行支援事業所開業のための物件選び
就労移行支援を開業する際の
物件選びの注意点
就労移行支援事業を開業するためには、まず最初に、就労移行支援として利用する物件を確保しなければなりません。この物件の選定が進まない限り、開業手続きを進めることはできません。就労移行支援事業を提供する物件の所在地によっては、管轄する指定権者も異なることに注意が必要です。
ただし、就労移行支援事業として利用する物件は、単にどんな物件でも良いわけではありません。物件は、就労移行支援事業に必要な設備要件を満たす必要があります。また、就労移行支援は障がいを持つ方々が通所する場所であるため、通常の物件使用よりも厳格な規制が適用されます。
就労移行支援事業を開業する際には、これらの要件や規制に合致する物件を選ぶことが不可欠です。ただし、障害者総合支援法に準拠するだけでなく、事業の運営に関連する法令も遵守することが求められます。つまり、開業だけでなく運営段階でも法令順守が重要であることを意味しています。
就労移行支援に適した立地
就労移行支援は、通常、ビジネス街や駅近くのテナントビルが選ばれることが多いです。これは、就労移行支援の主な目的が一般就労を支援することであるため、その立地も一般就労先を想定したものと言えます。しかし、必ずしもビジネス街に限定されるわけではありません。
市街化調整区域での就労移行支援
通常、「市街化調整区域」では、原則として就労移行支援事業を行うことができません。市街化調整区域は、市街地の拡大を適切に制御し、都市の発展を調整するための地域です。そのため、建物の建設や規模に関する制限が多く設けられています。
一般的に、就労移行支援事業はテナントビルなどの施設を活用するケースが多いため、この観点で制約を受けることはあまりないかもしれません。ただし、地域ごとに異なる規制があるため、市街化区域か市街化調整区域かを自治体の担当部署で確認することが大切です。
就労移行支援の物件は
テナントか戸建てか
就労移行支援事業においては、主にビルのテナント利用が一般的です。もちろん、戸建てで行うことは不可能ではありませんが、就労移行支援は通常一般的な職場への移行をサポートするサービスですので、テナントを活用して開業するケースが多い傾向です。
就労移行支援の周辺の環境
就労移行支援は、一般就労を目指す方々を支援するサービスです。通勤が必要であり、職場の周囲環境にも適応が必要です。そのため、就労移行支援の場所は、一般的に人の集まるビジネス街や駅周辺の賑やかなエリアが選ばれることが多いようです。
就労移行支援における建築基準法
最近、建築基準法が改正されました(令和元年6月27日施行)。この改正により、就労移行支援として使用する面積が200㎡を超える場合、建築基準法の「用途変更」という確認申請手続きが必要になります。以前は、就労移行支援として使用する面積が100㎡を超える場合に用途変更手続きが必要でしたが、改正により面積要件が緩和され、200㎡を超える場合に確認申請が必要となりました。
従って、就労移行支援としての場所選びを行う際には、200㎡以下の物件を選ぶことが重要です。面積が200㎡を超える場合、用途変更の確認申請手続きが必要であり、この際には「確認済証」と「検査済証」が必要となります。
ただし、これらの証明書が失われる場合も多いため、用途変更手続きは複雑で高額なものとなりがちです。このため、用途変更手続きが不要な200㎡以下の物件を選択することが望ましいです。
用途変更手続きが必要な場合、建築士への依頼が一般的です。従って、就労移行支援として使用する部分の面積が200㎡を超えてしまう場合、地域の建築指導課や建築士に相談することがおすすめです。
逆に、就労移行支援として使用する物件の床面積が200㎡以下であれば、用途変更手続きは不要です。しかし、建築基準法への適合は必要です。このため、ほとんどの自治体で「確認済証」と「検査済証」の提出が求められます。一部の自治体では、「確認済証」のみか、代替資料として「建築計画概要書」や「確認済証等の証明書」を使用することも可能です。したがって、「確認済証」や「検査済証」が紛失している場合でも、自治体に問い合わせて代替方法を探ることが大切です。
仮に「確認済証」や「検査済証」がなく、代替資料でも建築確認申請を証明できない場合、建築士による「適合証明書」を提出する必要があるかもしれません。この証明書は、就労移行支援が問題なく行われることを保証するものです。この場合も、建築士への報酬が必要になることが一般的です。
以上から、就労移行支援として使用する物件を選ぶ際には、用途変更手続きが不要な200㎡以下の物件を選ぶことが推奨されます。
検査済証がなくても
用途変更手続きができる場合がある?
検査済証が存在しなくても、「建築基準法適合状況調査報告制度」を通じて、用途変更や増改築の確認申請手続きを行うことができるケースがあります。
この制度は、特定の行政庁が、一級建築士などによって検査済証のない既存建物の調査を依頼し、建物が建築基準法などの関連法令に準拠しているかどうかなどを報告させるものです。この報告書を提出することにより、用途変更や増改築などの確認申請ができる状況が生まれることがあります。
ただし、これは例外的な取り扱いであり、報告書の提出には詳細な調査が必要とされることが多いです。報告制度の詳細については、自治体の建築指導課や一級建築士などに問い合わせることをおすすめします。
就労移行支援における消防法
就労移行支援の指定申請時には、「防火対象物使用開始届」というものが必要です。これは、消防法に適合した設備が整っていることを証明するものです。自治体によっては、就労移行支援の指定申請時にはまだこの届け出を提出しない場合もありますが、事業所としての責任を考えると、事前に消防法に適合した設備を整備することが重要です。
ただし、消防法は非常に複雑で、単に設備を備えるだけでなく、工事の途中から完了までの手続きが求められます。具体的には、工事着工前には「着工前届」を提出し、工事完了後には設備が正常に作動するか確認する「設置届」を提出する必要があります。これに加えて、消防署による現地調査も行われ、設備の正確な設置が確認された後で、「防火対象物使用開始届」に合格印(この表現は一般的ではありませんが)が押されるのです。
【防火対象物使用開始届を取得するまでの流れ】
① | 事前の相談 |
② | 工事前の着工届 |
③ | 工事後の設置届 |
④ | 防火対象物使用開始届 |
⑤ | 消防署による現地確認 |
⑥ | 防火対象物使用開始届に押印 |
「防火対象物使用開始届」には、消防署によって押印されたものを、就労移行支援の指定申請書類に添付して提出する必要があります。就労移行支援の開業を進めている段階で、指定が間近なのに「防火対象物使用開始届」だけが準備できずに指定が遅れるというケースもよく見られます。
そのため、当事務所では就労移行支援の開業支援を行う際には、消防署の予防課と事前に相談を行い、設置する消防設備について詳細に協議することをおすすめしています。これにより、指定申請を進める際にスムーズな手続きを確保することができます。
就労移行支援の開業の際の消防法のポイント
・就労移行支援…消防法施行令別表第一の6項ハ(5)に該当
6項 | ハ | ⑴ 老人デイサービスセンター、軽費老人ホーム(ロ⑴に掲げるものを除く。)、老人福祉センター、老人介護支援センター、有料老人ホーム(ロ⑴に掲げるものを除く。)、老人福祉法第5条の2第3項に規定する老人デイサービス事業を行う施設、同条第5項に規定する小規模多機能型居宅介護事業を行う施設(ロ⑴に掲げるものを除く。)その他これらに類するものとして消防法施行規則第5条第8項で定めるもの ⑵ 更生施設 ⑶ 助産施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童養護施設、児童自立支援施設、児童家庭支援センター、児童福祉法(昭和22年法律第164号)第6条の3第7項に規定する一時預かり事業又は同条第9項に規定する家庭的保育事業を行う施設その他これらに類するものとして消防法施行規則第5条第9項で定めるもの ⑷ 児童発達支援センター、情緒障害児短期治療施設又は児童福祉法第6条の2第2項に規定する児童発達支援若しくは同条第4項に規定する放課後等デイサービスを行う施設(児童発達支援センターを除く。) ⑸ 身体障害者福祉センター、障害者支援施設(ロ⑸に掲げるものを除く。)、地域活動支援センター、福祉ホーム又は障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第5条第7項に規定する生活介護、同条第8項に規定する短期入所、同条第12項に規定する自立訓練、同条第13項に規定する就労移行支援、同条第14項に規定する就労継続支援若しくは同条第15項に規定する共同生活援助を行う施設(短期入所等施設を除く。) |
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・もしビル内に他の福祉事業所(特定防火対象物)がテナントとして入居している場合、その建物は複合用途防火対象物(16項)として扱われ、更なる厳しい設備要件が求められます。
・複合用途防火対象物とは、令別表第一の(1)項から(15)項までの防火対象物の用途の中で、2つ以上の異なる用途を持つ建物を指します。具体的には、消防法令別表第一の(16)項イ、(16)項ロに該当します。
(16)項 | イ | 特定用途の複合 | 複合用途防火対象物のうち、その一部が(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)項イに掲げる防火対象物の用途に供されているもの |
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ロ | 非特定用途の複合 | イに掲げる複合用途防火対象物以外の複合用途防火対象物 |
・一定の規模を持つ防火対象物は、適格な候補者から「防火管理者」を指名し、防火管理業務を実施する必要があります。
・就労移行支援の場合、通常はテナントビルに入居することが多いですが、大規模なビルの場合、ビル自体が特定の消防設備業者と提携しており、消防設備の点検も行われていることがあります。このような場合、ビルのオーナーや管理会社と連絡を取り合い、既存の消防設備業者に工事を委託することが効果的かもしれません。彼らはビルの設備配置に詳しく、スムーズな進行が期待できるでしょう。
弊事務所では、就労移行支援事業を始める際には、消防設備工事が必要な場合、消防設備士と共に消防署との綿密な協議を行います。この段階で十分な協議を怠ると、現地調査時に許可が得られない可能性があり、工事をやり直さなければならないか、防火対象物の使用開始届に消防署の承認を得られない場合があります。
就労移行支援の際の近隣住民への説明
就労移行支援事業を始める際には、近隣住民への説明が重要です。
法的には、就労移行支援事業の開業時に近隣住民への説明会を開催することが義務づけられているわけではありません。しかし、今後長期間にわたり同じ場所で就労移行支援を提供する計画であるため、少なくとも同じ建物に入居している他のテナントに対して、開業の挨拶などを行い、良好な関係を築くことが推奨されます。
就労移行支援のための駐車場
就労移行支援の場合、利用者が自分で事業所に通うことは、自立訓練として重要な要素です。そのため、通常は車両による送迎が行われるケースは少ないようです。ただし、送迎に関する特別加算があるため、車両を使用する場合には駐車場の確保も考慮する必要があります。
就労移行支援の設備基準
就労移行支援事業を始めるためには、適切な設備基準を満たす物件が必要です。
スケルトン状態の物件を就労移行支援事業用に借りる場合、内装工事や消防設備工事を開始する前に、自治体の関連部署や消防署との事前協議(事前相談)を絶対に行う必要があります。
就労移行支援事業の事前協議(事前相談)によって、内装などの詳細な計画を確定させることが重要です。
この確定前に工事を始めると、後で工事のやり直しが必要になる可能性があるため、注意が必要です。
設 備 | 要 件 |
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訓練作業室 | サービス提供に支障のない広さを備えること。 大阪市の場合は、利用者1人当たり約3.0㎡必要。 |
就労移行支援事業は、最低定員20名。 訓練指導室の最低面積は60㎡(20名×3㎡)が必要。 |
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相談室 | プライバシーに配慮していること。 |
多目的室 | 相談室と兼務可能。 |
事務室 | 鍵付き書庫を設置すること。 |
洗面所・トイレ | 洗面所(手指洗浄)はトイレ内手洗いとは別々であること。 |
就労移行支援のために
物件を借りる際の賃貸借契約の注意点
就労移行支援のテナントとの賃貸契約を締結する際には、賃貸の目的として「障がい福祉事業」や「就労移行支援事業」の運営を明記します。また、通常の定期的な賃貸契約ではなく自動更新契約を採用します。しかし、正式な契約を締結する前に、自治体に賃貸契約の内容(案)を提出して確認を取ることが大切です。
加えて、就労移行支援テナントにはほとんどの場合、消防設備工事が必要となります。賃貸契約を締結する前に、テナントの使用するスペースに消防設備工事を行う計画がある場合は、大家との合意を事前に取得することが重要です。一部の消防設備は建物全体に関わる工事が必要なこともあり、その場合は費用の負担がどちらにかかるかを大家と借主の間で事前に話し合う必要があります。
就労移行支援における条例の規制(福祉のまちづくり条例、バリアフリー条例など)
都市計画法、建築基準法、消防法に加えて、自治体独自の条例による厳しい規制が存在することがあります。例えば、京都府の「福祉のまちづくり条例」や京都市の「バリアフリー条例」などが該当します。就労移行支援事業を始める際には、これらの条例にも適合しなければなりません。
これに加えて、就労移行支援施設を探す際には複数の注意点が存在しますが、特に大切な要点は以下の通りです。
不動産仲介業者さんへ就労移行支援の
物件探しを依頼する際のポイント
・「目的」を明確に伝える。
・就労移行支援用スペースの面積を「200㎡以下」に制限する。
・使用する物件に「確認済証」と「検査済証」があるか確認し、ない場合は自治体に代替資料での可能性を問い合わせる。
・物件の賃貸借契約は自治体との「事前協議(事前相談)」が完了してから行う。
・内装工事費が高額になるため、スケルトンではなく居抜き物件を検討する。また、大規模な消防設備工事が必要な物件は避ける。
※上記の要点を満たしていたとしても、必ずしも指定が認められるわけではありません。ケースごとに異なるため、自治体の担当部署に事前に確認を取ることが重要です。
就労移行支援事業を開業する上で、適切な物件を見つけることは非常に重要です。計画が進むためには、適切な開業物件の選定が欠かせません。多くの場合、就労移行支援事業はテナントビル内で行われるため、ビジネス地域の不動産業者に希望条件を伝えておけば、適切な物件の情報を受け取ることができるでしょう。
同様に、すでに開業している就労移行支援事業所も、将来の拡大や新規開設を見越して常に物件探しを行っています。良質な物件を見つけるためには、常にアンテナを張っておくことが大切です。
しょーふく大阪では、正式な指定申請がある場合に限りますが、就労移行支援用の候補物件についても調査を行っています。物件が消防法や設備要件に適合しているかどうかを確認し、お客様の要望に合った適切な物件を見つけるお手伝いをしています。物件選定にお困りの際は、お問い合わせください。